君に刻む、愛の証


きっちりと絞められた白い軍服の襟元。

黒い髪が彼の肌の白さを強調させている。

少し離れた席に座って、談笑する日本をイギリスはじっと眺めていた。

気付いているのか、いないのか。

いつもきっちり着こなす日本のこと。その詳細は分からないけれど。

「ばれたら、怒る・・かな」

でも、どうしても譲れない。だって日本は俺のものだ。

アメリカに阿呆だと言われても、どうしようも出来ない。



愛しい彼への、狂おしいほどの独占欲。



そのストイックな服の下に呆れるほどの、印を刻む。気付いたら、病気だと思える程の赤い斑点。

薄れてしまうことも、消えてしまうことも、やるせなくて。

日本はいつも嫌がるけれど、そんなこと頭に入らない。


「どうして、そんなに跡をつけたがるんですか?」

疑問をぶつけられたのは初めてだった。

日本の顔がなんとも言えない困り顔で、イギリスは思わず目を背ける。

「別に・・意味なんてない。普通のことだろ」

「普通・・?」

何か言いたそうな日本を残して、イギリスはその話題を打ち切った。



「だって恥ずかしいだろうが」

不安も、嫉妬も知られたくはない。

でも、行動がそれを矛盾させる。



「・・そんなに嫌か?」

彼を起こさないようにそっと首元の赤をなぞる。

それは襟元に隠れるギリギリのライン。

抑えきれない衝動。

愛しいとか好きとか、そんな優しい気持ちじゃないんだ。

もっと醜い、俺のこだわり。



「イギリスさん」

上から降る穏やかな声に我に返る。

いつの間にか日本が俺を見下ろしていた。

「隣、いいですか?」

「あぁ。俺は構わないが」

そしてそっと椅子を引き、座る彼の横顔を覗き見た。いつもみたいに微笑んでいて、何も読み取れない。

イギリスはなんだか居心地が悪くて手にしていた紙の束を無意味にパラパラめくる。


「私…一つ言いたいことがあるんです」

「へ」

唐突に。切り出した日本に声が裏返った。

「な、何だよ…」

そして声を潜めて。

「私…嫌ではありませんよ」

「は」

「昨日…そう仰ってたようですから」

「っ…。お前、起きて」

知られたくない独り言。真っ赤になった顔から複雑な気持ちを悟られたくなくて、イギリスはプイと目線をずらした。

そうして悪戯が見つかった子供のように、少し拗ねて唇を尖らせる。

「ずるいぞ、日本」

「ずるいのはイギリスさんでしょう。首、どうしてくれるんですか」

「…」

返答を考えあぐねいているイギリスの困った様子に、クスリと日本は笑いを零した。

そして。


「おあいこ、なんで許してあげますよ」


え、とイギリスは日本の台詞に驚いてパチと瞬きする。


今、日本はなんて…?


「ここに、少し」

微笑みながら、日本は自分の横の首のところをトントンと人差し指で叩いた。

絶句して、条件反射で同じ左側の首の部分を抑えたイギリスは、そして慌てて、駆け出した。


撒き散らした書類を集めて、日本はほうっと吐息を零す。


「…あまり。慣れないことはするものではありませんね」

火照った顔は冷やした方がいいかもしれない。彼が帰ってくる前に。

ずいぶんと自分にしては思い切ったことをしたものだ。

「だって不公平でしょう。私だけ恥ずかしい思いをするなんて」


だから知ればいい。

その赤に刻んだ私の思いも。



「キスマークって、その人の想いを表してるんじゃないかな」

そんな友人の言葉。そして、日本は分かってしまった。

「多ければ多いほど、情熱的というか・・。想いに比例していると考えるね、僕は」

嬉しいなんて思ってしまった。

 

「だから、私も・・いいでしょう?イギリスさん」

 

今頃、鏡に向かってどうしようとイギリスは焦っているに違いない。

それとも、堂々と帰ってくるだろうか。

どちらにせよ、困っていながらもきっと同じように思ってくれているはずだから。

 

愛しい彼への、狂おしいほどの独占欲。

 

それは自分も同じこと。